【新装版】個を活かす企業の二回目。2つのストーリーを比較してみる。ストーリーは創作。実在の会社とは関係がない。

インド楽天ではこのところ駅近くの屋台でのiPad型端末を利用した電子商取引サービスが注目されている。この可能性に注目したのは、東京出身の田中だ。インド人のスタッフと恊働して企画書を作り上げた。このところ楽天は世界各地に散らばったリソースをクラウド化することでサーバーのコストは劇的に下がっていた。十分に現地の会社と対抗できるだろう。東京本社にいる事業部長と(もちろん英語で)テレコンファレンス。スミス事業部長は田中の実績を良く知っているので、快くプロジェクトを了解した。田中とスミス事業部長は田中に利益率と成長率についての目標を与えた。もちろん田中はその数字を良く知っているのだが、スミス部長は、ロンドンにいるチャンをチームに加えれば、田中が計画した成長率をさらに20%程度ストレッチできるのではという。田中はときどきスミスに相談しようと思った。スミスの目標はなかなかチャレンジングだが、過去の経験から彼が的確なアドバイスをしてくれるであろうことを知っていたからだ。社内にある人名録で必要なスタッフを選び出し、リソースの空き具合を調べて、プロジェクトにアサインした。3か月の開発の後、βテストが行われた。成果はそれぞれのスタッフの人事考課に割り振られた。こうして楽天は日々成長している。

これが「英語が公用語化」し、社内に情報インフラが張り巡らされた結果起きるであろう変化だ。ここではコスト削減と成長が同時に実現する。しかし、英語化と情報化が進んでも、こうなるとは限らない。パラレルワールドにある楽天を見てみよう。三樹谷さんという会長が出てくるが、三木谷さんとは全く関係がない。

三樹谷はいらだっていた。成長の鍵になる事業が全く見つからない。成長市場であるインドや中国から本社スタッフを集めてきた。どうやら話はできているようだが、彼らの作った計画がまったく役に立たないのだ。本社にはアジアを含めた1000人のスタッフがいる。北米市場もビジネスモデルが違うので、日本のサービスを持ってゆけない。もちろん先行業者がいて、苦戦している。三樹谷は知らないのだが、実は日本の事業部Aと事業部Bは同じようなサーバーを持っていた。統合すればコスト削減ができることは分かっているのだが(少なくとも現場レベルでは…)それはどちらかが仕事をなくすことを意味するのだった。インドにいる田中は最近出て来たiPadを持った屋台が成長の鍵になるのではと考えていた。しかし本社のスタッフには全く相手にされない。自力で企画書を作り(インドのスタッフは時間が終ると帰ってしまうし、日々の目標が割り振られていて余計な仕事を抱え込む気力もなければ、協力したいとも思っていないのだ)なんとかこれを本社に認めさせた。しかし余剰なスタッフはインドにはおらず、本社のエンジニア(なぜか、シゴトがなく社内であぶれていた)の時間を貰った。彼らの上司スミスは「しぶしぶ」承諾する。

それでも三樹谷の戦略に基づいて、企業はなんとか成長を続けている。多分彼が在任中に成長が滞ることはないだろう。余剰エンジニアを抱えているスミスは三樹谷にそれを言い出せなかった。もし余剰があることがばれれば、予算は縮小してしまうだろう。それに田中の新しい事業は、本社の戦略とは一致しない。故にこれが成功してもポイントにならないのだ。

実際の楽天がどちらに近いのかはよく分からない。英語化は世界のマーケットへのアクセスを容易にし、コスト削減が可能になるだろう。ここでは「よいシナリオ」を先に書いているので、協力的でない上司が悪く見えてしまうのだが、実際には強いCEOのリーダーシップのもと成長している企業というのはいくらでも存在する。シニアマネージャがリファレンスするのは「顧客」ではなく「自分の上司」だ。

「個を活かす」の原題はインディビジュアライズドなのだが、個々のマネージャなどの単位が自律的に新しい成長点を探す企業がイメージされているようだ。ここで見た通り、マネージメントはレベルによって別の機能を持っている。そして、社内は積極的に共同作業に参加する事が「善いこと」なのだという共通認識がある。個を活かすといっても「好きな事だけをしていればいい」という訳ではない。目標があり、ストレッチされている。後者にも目標はあるのだが、誰か別の人が設定しているからか「達成できるだろうか」「失敗したらどうなるだろうか」と常に心配がつきまとう。

次回は、このシナリオについて細かく見てみたい。

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