今月号のHBRは面白かった。賞を取った論文が過去40年分くらい読める仕組みになっている。この中で最新のものが「アメリカのモノ作り」について書いている。

アメリカの製造業は衰退しつつある。原因は経営の短期化だ。短期的に高収益を得るために、アウトソースを利用する。すると地元にあった製造業機能の一部が失われる。これがしきい値を下回ると、このコミュニティが維持できなくなり、全体的に衰退する。これが結果として、製造業を衰退させるというのだ。この事例は製造業だけでなく、IT産業にも当てはまるのだという。

アメリカは設計など高付加価値分野に特化すべきだという意見もあるのだが、これは間違いだと記事は指摘する。イノベーションは、何かがあったときに「すぐに試せる」ことが重要だからだ。試行錯誤を繰り返すことによって、イノベーションが加速する。

こうしたネットワークをここでは「コモンズ」と呼んでいる。

この論文を読んでいて思い出したのは2つの本だ。


クリエイティブ都市論は、創造を支える都市のネットワークについて研究している。この論文の「コモンズ」に似た概念だ。ネットワークは有機的に結びついていて、さまざまな試行錯誤やアイディアの交換を支えている。一方、IDEOのイノベーションの達人の中には、必ず、プロトタイプを作ってから議論を進めるのだという。コンセプトだけを煮詰めていると「机上の空論」に陥ってしまいがちだからだ。設計だけを分離しても問題はなさそうなのだが、実際には設計現場とモノ作りが分離すると、イノベーション過程に深刻な影響を与えかねない。

まず興味深いのはこれが日本ではなくアメリカの事例であるということ。つまり、言われていることはどこも同じようなものだということだ。もう一つは、かなり真剣にイノベーションについて考えていること。そして最後は実際に実践しているというところだろう。

日本人の特徴は、効率重視だというところだ。「これが正解」だと思えばそこに邁進するのだろうが、正解が分かるまでは延々と議論を繰り返すようなところがある。ところがイノベーションには、これといった正解はない。そして確実にそのほとんどは失敗する。

日本人は既に成功している事例を日本に持ってくることによって、この不確実性を回避してきた。ところが世界が緊密に結びつくと、製品のライフサイクルが短くなり、各地のプレイヤーとも直接競合することになる。

加えて、グローバル経済の影響で、各地のサプライヤーと直接取引することがある。するとサプライヤー同士の結びつき(コモンズとも)が稀薄になり、結果的にしきい値を越えて消失することになる。

イノベーションセンターというとなにやらいかめしいが、日本では町工場や地場産業あたりがその候補地域だろう。「日本にシリコンバレーを」という人がいるのだが、もともと地域にはそれなりのネットワークがあるので一から作り直すことはない。

町工場の群れがあり、ある程度のネットワークを作っている。国内市場は拡大しないからという理由で海外に進出しなければならない。全ての企業が英語ができる社員を雇って自前で進出できればよいのだろうが、そうはいかない。もしネットワークが緊密にできていれば、その内の一つが海外にネットワークを持っていればいい。中国にネットワークを持っている会社と、アメリカにネットワークを持っている会社は違うかもしれない。

イメージとしてはこんな感じだ。

最初から全てを作り直そうと考えると、その道のりは長く感じられる。しかし、いまあるものを再利用できるのだと考えれば幾分と気持ちがラクになるかもしれない。

このように考えると、地域経済が復興するのに必要なのは「英語ができる人材」ではないように思える。地域経済を結びつけてコンペティターではなく協力者として再編できるプロデューサーの存在がより重要だと思えるのである。

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