【新装版】個を活かす企業の三回目。前回は楽天をモデルにした企業のシナリオを2つ挙げた。前者は社内に協力体制ができているシナリオ。後者はCEOの作った目標を達成しているが、かなり「かつかつ」な組織だった。(もちろん、組織をスリムにしておくのは悪いことではない)後者ではボトムアップの提案は実現しにくい。後者は中央が作ったプランに沿った行動を取った人にご褒美をあげる。これをインセンティブという。もちろんマイナスのインセンティブもある。一方前者は「自分たちで作った目標」をおいかけるわけだから、やる気が出やすい。モチベーションが高い後者の方が組織に活力がでるだろうというのが、この企業論の基礎になっている。

さて、この本の中ではマネジメントは3層に分かれている。インドで新しい機会を見つけた「田中」はかなりいろいろな資質を持っている。新しい機会を発見し、周囲のスタッフを巻き込み、実現に必要なスタッフを見つけ、英語ができる。ここでは出てこなかったがP/Lが管理できるということは、会計の基礎知識も持っているはずである。「数字が分かるマネージャー」というだけで、そんな人材は社内にいない(いるはずはない)という会社は多いのではないだろうか。社内研修をやっても「普段の仕事が忙しいから」「数字はよく分からないから」という理由で会計知識を身につけてくれない人も多そうである。

優秀なマネージャーは多分与えられたタスクに対してセールス上華々しい成績を納めているような人だろう。彼らに数字の目標を持たせたまま研修に参加させるのは難しい。かといって、数字の目標を取り去ってしまうと怠けてしまうかもしれない。

さらにミドルクラスのマネージャー(スミス氏)もなかなかいそうにない人物である。スミス氏は会計上の知識があり、田中さんが持ってくるビジネスプランに対して必要な助言を与えて、目標をストレッチする。ファシリテーターとしての能力は持っている。事業部長なのでB/Sレベルの知識を持っているのは当たり前としても(実際には数字の分からない事業部長も存在するのだろうが)助言はするが、余計なおせっかいは焼かないという人はなかなか少ないのではないか。

田中さんが持ってくるプランに対して、過去の成功例を振りかざしつつ、具体的にストレッチするアイディアは持たないというマネージャーはいそうだ。また必要なリソースを与えず、かつかつの予算でプランの実行を矯正する人もいそうだ。この本では当然のことのように扱われているのだが、スミス氏はファシリテータと同時に投資家の役割を果たしているのである。

田中さんが年功序列でキャリアステップを上がりスミス氏になれるかという疑問もあるし、田中さんよりスミス氏の方がエライのか、役割が違うだけではないのかという疑問もわく。現役でいつまでもやっていたい人にとってはかなりつらいポジションである。

田中さんはP/L上の責任を持っているのだが、当然スミス氏も責任を負っている。うまく行かなかった場合「あれこれ口出しをしたり」「田中さんを非難することなく」必要な助言とリソースを与え、なおかつダメな場合には撤退も視野に入れた決断ができるかということだ。ここまでの責任を負いつつ助言者に徹する事ができるか、と考えるとかなり難しい役割のように思える。

最後に前者のストーリーには出てこなかったマネージャーがいる。それがCEOにあたる人だ。スミス氏のような人たちを集め、ビジョンと社内文化を徹底させる。必要な改革を行うという役割だ。冒頭に「モチベーション」でリードするか、「インセンティブ」で管理するかという問題提起が出て来たが、この他に「戦略で縛るのか」「文化でリードするのか」という違いもある。戦略は数値目標を決め、そこに到る道筋を準備するやり方だ。こうした統制方法を持っている企業からは「部下にやる気がない」「成長につながるアイディアが出てこない」という感想が出てくる事がある。

例えばリクルートは事業コンテストで新しいメディアのアイディアが出てくる会社だが、ここから社員と情報システム(P/Lが即座に作れる仕組みがあるそうだ)だけを引き抜いてきても、リクルート型の企業ができ上がるわけではない。また同時に、強いリーダーシップのもとマネージャーが自律的に働く会社を作った企業もある。

このような組織作りが難しいのは、数字のようにいっけん客観的に見えるものを扱うわけではなく、文化という何か得体の知らないものを扱っているからである。しかし実際には文化を基礎にして、組織、人、情報基盤を組み上げて行き、「どう行き着くか」「どれくらいの数値を扱うか」ということをマネージャーたちに決めさせて成功している企業もあるのである。

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