企業文化は非公式なコードのあつまり

モチベーションを上げてもらうためには、目標を押し付けるのではなく、考えてもらうべきだ。それでは「何も考えなく癖」が付いている企業で「自分で考えてもらう癖」を付けると何が起こるかを考えてみたい。

ある企業で「オーナーシップ」が言われるようになった。背景には業界一位の企業が上流行程(つまりコンサルテーション)に進出し成果を上げているという事情がある。現在業界5位のその会社は「言われたことだけをやる」会社だという評判があり、実際にその通りだったわけだ。5年前の話で、まだ経済はいまほど縮小していないが、このままでは価格競争に巻き込まれるのは必至という状況だったわけだ。

この会社で起こったことはいくつかあるのだが、一つ顕著だったのは「不正」が横行しだしたことだった。この会社は少数の正社員が、「XX社員」と呼ばれるアルバイトと契約社員を雇う構造になっている。表向きは社員だが、そこには階層構造がある。そしてアルバイトを契約するのは現場社員(平社員なのだが、組織上はかなりピラミッドの上の方にいる)なのだ。彼らは本社に2500円で雇ったということにしておいて、2000円くらいで契約する。すると500円が差額になり、これを社員が着服したのだった。

彼らは「自分で考えるように」と言われて「経営者意識を持ちなさい」とも言われていた。それを彼らなりに解釈してコストを見直す。その結果「ここを中抜きすれば儲かる」と考えたのだろう。彼らなりに経営者の言う事を実行したのだった。

よく考えると、経営者意識を持っても、現場社員には何のトクもない。彼らは彼らなりにいろいろな提案をするのだが、本社スタッフ(たいてい良い大学を出て、経営知識を持っている)からみると拙い提案に過ぎない。実際に現場のことしか見ていない訳だから、非現実的な提案も多い。すると彼らの中に、徹底的な無力感が生まれる。「伝わらないだろう」というわけだ。これが募り、裁量権を与えられると不正が生まれる。不正というよりも彼らが考える起業家精神を発揮したに過ぎない。

本社スタッフは、MBA式のプレゼンツールを渡せば彼らは経営的視点を持つだろうと考えたようだ。ラダー式の収益マップを作り、SWOT分析をこなすようになった。教えられたことは素直に学ぶ。しかし、実際に経営者マインドとオーナーシップを持っているとは思われない。

同時期に情報漏洩が問題になり始めた。社員の下の階層でも多分別の問題が起こっていたものと思われる。結局、不正が起きないように1から10までをマニュアル化して、そこから一歩も外れないようにすることでこれらの問題を回避した。このやり方はあまり抵抗を受けなかった。つまりは指示されることにはあまり苦痛を感じない人たちなのだ。

一方、有名な銀行に勤めていたマネージャーを雇って来て、コンサルチームを作った。マネージャーと経営者の指揮のもとコンサルチームが立ち上がったのだが、ここから外に「コンサル」文化が浸透することはなかった。

この考察はある程度【新装版】個を活かす企業を下敷きにしている。統制ルートは経営者にとっては重要なツールなのだが、企業文化によっては「まちがって」伝えられることがある。それは文化が非公式なコードの集まりで直接的にコントロールできないからなのだった。(※余談だが、英語を公式言語として持って来ても、英語圏の企業文化をそのまま移植することはできないだろう。英語そのものはツールなのだが、英語文化は非公式なコードの集まりだからだ)

文化を移植するためには、よそからヒトを雇ってくるのが一番早い。しかし、移植してもその文化が組織全体に馴染むとは限らない。だから、企業文化を変えるには、まずどのような文化が根付いているのかを理解する必要がある。それはワインバーに通っているヒトが新橋ガード下の立ち飲みバーを理解しようとするのに似ている。つまりそれはとても難しいことなのである。

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